はじまって10ヶ月、自分で暮らしをつくること。――ぴたらファーム

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自然循環型農法を取り入れる、ぴたらファーム。”ぴたら”というのはマオリ語で”テントウムシ”という意味。肥料も暮らしも、手作り志向。取材班山田、山口、石川の3人がお話を聞いてきました。

「暮らしをつくる」っていうのが一番のポイント

――
そもそも農業をしようと思ったきっかけは?

泰斗(たいと)さん もともとは農業についてまったく知らなかった。海外放浪したあと、半農半Xって言葉に出会って、じゃあ僕にとってのXはなんだろうと考えました。それで思いついたのが木工。家具を作る勉強を職業訓練校でした後、3年ほど弟子入りしたり、工場で働いたりしました。そのあいだに家庭菜園も自分でやってたんだけどうまくできなくて。半農半Xって言いながら、そのベースになる農がわからないことにすごく不安を感じていました。だから木工修行も半ばに本格的に農への道を探って、(茨城県にある)暮らしの実験室やさと農場と出会いました。やさと農場では農業だけかと思ったら、養豚もある、養鶏もある。加工もしていて、色々なことをしている場所だってわかりました。ここならたくさんのことを一気に学べるんじゃないかなと思いました。僕、欲張りだから(笑)それでやさとを選んだんです。スタッフとして運営も一緒にやって、最初は建築を担当。それから養豚を1年、後半の2年間は畑を担当しました。

彩華(さいか)さん 私は、大学時代は造園設計をしていて。子供の頃から植物が好きで、植物関係の仕事につきたいっていうのが小学校の時の将来の夢でした。造園設計をやったんだけど、デザイナーとお客さんの利害関係とかに疑問を覚えました。植物をいじることは大きな規模でいうと生態系をいじることだから、もうちょっと持続可能なやり方はなんだろうとか、暮らしに密着したやり方はなんだろうとかずっと模索していました。
社会人のときは造園設計とはまったく違うデジタルな会社にいて、新宿でOLをしていたんですけど。その時にパーマカルチャーっていうくらしを知って、私のやりたいくらしにすごく近いなって気づきました。農業をやりたいというか、そういう暮らしをしたいと思いました。30歳のワーキングホリデーを申請できる最後の歳、会社での大きなプロジェクトが終わるという機に会社を辞めて、ニュージーランドとオーストラリアに行ったのが二年前。オーストラリアとニュージーランドから一時帰国してるときに自然農法センターの研修を知って、応募したら受かって、面接に行ったり、話がとんとん進んで、研修を受け始めたのが去年の3月。(研修は)3月から11月、その間に泰ちゃんたちと出会って、目指したいビジョンが似てるから、「じゃあ、一緒にやろうか」って。それを決めたのが夏くらいで、並行して研修したり山梨にいったり・・・。で、研修が終わった11月末、一緒に始めました。

――
4月に出会って、夏に一緒にやることを決めて、11月に始めるって、すごくスピーディですね。

彩華さん
スピーディですよね。周りからはすごく早いと思われてるんですけど、私の中のストーリーはつながっていて。普通に流れができたかなあ。


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――この場所で農業を始めたのはいつからですか?

泰斗さん去年(2010年)の9月から。まだ10ヶ月くらいですね。

彩華さん
泰ちゃんが山梨に土地探しを始めたのが去年の4月。

泰斗さん
去年の1月頃から、兄貴とサトコさんと土地はどこがいいかって色々探して、北杜市がいいって決めました。4月の頭から僕が単独で入り込んで場所探しを始めて、4月から9月まで、ずっと農家さんから農家さんへ家なしで回って泊めてもらいました。wwooferになったり、手伝いにお願いしますって頼んだり、紹介してもらったりして、ひと月に10ヶ所から15ヶ所くらい泊めてもらいました。 だから、ネットワークはだいぶ作れました。それで9月の頭に農業を始められるようになりました。4月に来た時には、知ってる人は誰もいなかった、ここには。

――今は専業農家ってことですよね?出荷して、それで生計を立てている。

泰斗さん
専業農家・・・、うーん、専業農家っていうか・・・。

――
あんまり専業とか兼業とかっていう言葉は意識することがない?

お二人
うん。

――
今は宅配がメインだそうですが、宅配を始めたのはいつからですか?

泰斗さん
10月から。去年の9月くらいから畑を始めて、10月22日が1回目の宅配でした。それで10月24日には、出店もしています。だからけっこうスタートが早い。(写真をみせてもらいながら)そのころの畑です。9月から始めて1ヶ月半で野菜がこれだけできるってわかりました。
僕としては、「農家になりたい」じゃなくて、「暮らしをつくる」ってところが一番のポイント。だからお金にならないようなものもたくさん作ってしまいます。

彩華さん
自分が食べる用ね(笑)

泰斗さん
「自給自足」をすごく意識しています。それから循環型というのが大切なキーワードの一つです。



無農薬で、全部手作りにしたい。

――理想はパーマカルチャー、循環型と聞きましたが、具体的に農薬や肥料はどういうものを使っているのでしょうか?

泰斗さん
農薬や化学肥料は一切使わずに、牛や馬の堆肥や米ぬかなどから作ったぼかしを使っています。将来的にはやさと農場のように有畜複合農業ができたらといいなとも思っています。


――"有畜"とは何ですか?

泰斗さん
畑だけでなくて養豚や養鶏などをすることで堆肥も自前でまかなうような農業です。循環するレベルで良いから、そんなにたくさんの動物がいなくてもいいと思ってるんだけどね。そういうところまでまかなえると一番安心出来ます。畜産は、命を相手にするわけだから飼い方からとても大切。そこまでこだわって、自分のところで循環できるといいなと思っています。今のところは、近くで安全にストレスなく飼われている牛の堆肥や、乗馬クラブから馬糞堆肥をもらったり、平飼いの養鶏所から鶏糞を買ったりしています。他には、ぼかしを自分たちで作っています。


――"ぼかし"とは?

泰斗さん
ぼかしは、米ぬかや、菜種、糖蜜などを発酵(ぼかす)して作られた肥料のことです。

彩華さん
例えば、米ぬか主体のぼかしは、米ぬかの中に、糖蜜と、あとEM菌みたいな微生物資材を入れて手作りしています。それを嫌気性発酵させたもので、匂いは甘酸っぱいような、糠漬けみたいな感じです。米ぬかは今は個人精米所で買ってるけど、今年はお米を育てているので、米ぬかも自分たちのものを使いたい。いろんなお米があるから、自分のところだったら安心だと思います。

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泰斗さん
肥料はできるだけ、多すぎない、使いすぎない事を心がけています。

彩華さん
堆肥はばんばん入れれば良いってことじゃないんです。大量投与して満足するのではなく、地中にいる微生物が元気に働けるような環境を私たちが作ってあげれば、自然と土は作られていく。作物が元気に育っていれば、虫にもやられません。慣行農業は化学肥料を入れすぎているがために、葉っぱに余った養分に虫が好んでやってくる。だから農薬をまかなきゃいけないという悪循環が生まれてします。微生物や虫たちがせっせと働き、作物に必要なエネルギーの循環が生まれる環境作りを目指したいです。


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――
今はいくつぐらいの畑を持っているんですか?

泰斗さん:田んぼは3枚、畑が…。(数える)

彩華さん
8枚ぐらい。

泰斗さん
ここから近いんだけど、(場所は)ばらばらにあって。5分から10分くらいだから歩いても行けるけど、荷物もあるから車で行く事が多いかな。

――畑では何を育てていますか? (資料見ながら)じゃがいもにんじん、きゅうりミニトマト、ピーマン、いんげんオクラ、つるむらさきが最近お勧めですとありますね。

泰斗さん
ははは(笑) それは先週出荷したやつじゃない?そのときに一番良い野菜を10種類併せて宅配しているので。

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彩華さん
やっぱり毎週同じじゃ飽きちゃうから、飽きないように種類を考えています。

泰斗さん
思いつく限りの野菜を植えています。できてないものもあるけど。雑穀、野菜以外も植えてます。野菜も色々な品種を植えています。たとえばナスだったら甘ナス、青ナス、長ナス。トマトだったら何種類あるだろう。ピーマン、ししとう、バナナピーマン・・・細かいところまであげるとすごい数になりそうです。

――種はどういうものを使用しているんですか?

彩華さん
私が研修していた自然農法センターのものとか、今まで泰ちゃんが触れてきて良いと思っている品種をもう一度買い直したりしています。種取りがしやすい野菜だったら種取りしていますが、全部の種類ではないです。種の純度を保つにはそれなりの管理が必要で、作物の種類によっては種取りのために1年以上畑を使ってしまいます。そうしていたら野菜作りのローテンションがうまく作れない。なので種を買わなくてはいけない作物もあります。

泰斗さん
無理せずにできる範囲でやっています。

――他に買っている場所はありますか?

彩華さん
松本に色んな固定種、在来種を扱っている昔からやっている種屋さんがあります。選べる場合は固定種、在来種を選びます。

泰斗さん
でも絶対に固定種というわけではなくて。作ってきたことで安心があるものとか、有機農業をやるのに適した品種があるから、それも選んでいます。海外から買ったりはあまりしないけど。

彩華さんズッキーニは海外種のを使っていますね。


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かっこいい暮らしをしていたら、それはみんながやりたいことになる


――今は現場(山梨の畑)は3人で、泰斗さんと彩華さんと伊織さん。お兄さん夫妻が東京メンバー。彩華さんは去年の11月からで、伊織さんは今年の4月から。畑を始めるっていう時に全員がいたわけではないんですね。

泰斗さん
うん。実際に9月から畑を始めたときも現地では僕1人でした。ただ週末にはよく合流していたし、普段も連絡は取り合っていましたよ。

彩華さん
私はまだ(自然農法センターの)研修中だったけど研修が休みの日には山梨に来ていました。

――現場スタッフと運営スタッフが別拠点にいるような運営の仕方がとても珍しいと思うのですが、こういう風に運営しようと決めたのはいつですか?

泰斗さん
将来的には一緒にここでやりたいと思っています。だけど、まだ経営を軌道に乗せるまでには時間がかかるので、それまでは仕方ないという現状がある。始めたきっかけは僕がやさと農場から独立しようと考えていたときに、ちょうど兄貴も経営の大学院から卒業するタイミングで、なにか事業をやってみたいと思っていました。僕のいた農場にきたときに、「ああこれがやりたいことだ」と気づいて、一緒にやることになりました。

――お兄さんは農業をひとつのビジネスモデルとして考えていたのでしょうか?

泰斗さん そうそう、兄貴はね、農業というよりもコミュニケーションのあるファームをひとつのビジネスモデルとして考えてた。ビジネスモデルになる暮らしがちゃんと回ればなって。農的な暮らしの豊かさは誰もがみとめるところだけど、それが経営的にも回って、さらにかっこいい暮らしをしていたら、それはみんながやりたいことになるじゃない。そうすれば、どんどんどんどんこういう暮らしが広まっていって、世の中が変わるかもって思います。

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――新しい経営の仕方ですよね。全員が家族という訳でもないし、1人で経営している訳でもないし。ボランティアの受け入れはしていますか?

泰斗さん しています。呼び名みたいなものは特にはありません。来てくれたら一緒に畑行こうよ、みたいな。現在、wwoofのホストに登録をしているところで、今日から10日間来てくれる友達もいます。元wwooferなんだけど、前の農場にwwooferとして尋ねてきて、僕はそのときwwoofのホストだったから、そこで仲良くなりました。



ぴたらぶって?

――「ぴたらぶ」というクラブがあったり、イベントをしていて定期的に来る人もいるんですよね?

彩華さん
「ぴたらぶ」は年間1万円の会員制度で、部員になるとお米と味噌ともう1品加工品が届きます。田んぼ1反あたりの収量を7俵として、1人当たり10kg分配される計算です。お米は最低5キロは保証しますが、豊作のときはみんなでそれを分けます。意図としては、ただお米を買うっていうんじゃなくて、豊作があったり不作があったり天候に左右されるって事を、育てるとまではいかなくても、意識として擬似的に体験してもらいたい。田植えの時に来てくださって「ぴたらぶ」に入った人もいるし、(宅配で)野菜を取った事をきっかけに「ぴたらぶ」になった人もいます。

――「ぴたらぶ」になるとイベントのお知らせが来るのでしょうか?

彩華さん
そうですね、一度来てくれた方には、イベントのお知らせを送っています。野菜の宅配の方にも全員送っています。田植えに来てくれた人にはその年の収穫イベントのお知らせは優先的にしています。お米もお味噌も「ぴたら部員」優先。

――これはすべて今年からの試みですか?

泰斗さんそうですね、すべて今年からです。

――ぴたらファームのお米は「ぴたらぶ」に入らないと手に入らないんですか?

彩華さんお味噌だけとか、お米だけの単品では買えなくて「ぴたら部員」で分けることになっています。今年は部員40人を目指していて、半分ちょっとくらいのひとがいます。

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――最後に、この仕事のやりがいを教えてください。

泰斗さん家を作ったり食べるものを作っていくことは生きていくために本来的に必要な能力で、その部分に関わっていることが大切なんだと思います。そういう暮らしをしていると生き甲斐を感じる。だからできるだけ多くの人にぴたらファームへきてもらって体感してもらいたいなって。僕は根っからこのような暮らしが好きだか ら、働いてるっていう意識はそんなにありません(笑)休みの日でも結局庭木の剪定作業とか、やってることが普段と大して変わっていなかったりね。暮らしと仕事をわけていないんです。そこがいいなあって思ってる。それからファームは自分だけの空間ではなくて、みんなのアイディアを取り入れてより良く、楽しくしたい。協働協想で場所作りができたらいいです。

彩華さん昔から植物も土も触るのが好きで、ただ触れているだけで、無心になったり良いエネルギーをたくさん貰えるんです。農業は重労働な部分もあるし、疲れるんだけど心地良い疲れ。純粋に自分が育てたものを食べるって、幸せです。あんなに小っちゃい種からこんなに大きく育って、しかも色づいて赤くなったりとか、時間をかけて育てたものを自分で調理して食べるって、五感すべてで幸せって思える。ぴたらファームの自給率も少しづつ上がってきていて。食卓に並んでいるのが、ほとんどが自分たちの野菜だったりする時は、とても満足感があります。あとは、お客さんから「おいしい野菜だね」とか、「良い畑だね」とかコメントをいただく事がやりがいにつながっています。でも私の場合おいしいものが食べたいとか、一緒においしいお酒を飲みたいとか、そういう事がー番の活力かもしれません(笑)

――ありがとうございました。



【ぴたらファーム】
現場スタッフを泰斗(たいと)さん、彩華(さいか)さん、伊織(いおり)さんの3人、東京スタッフを大樹(たいじゅ)さん、暁子(さとこ)さん夫妻で運営。農業形態はパーマカルチャーを取り入れた無農薬無化学肥料(栽培期間)による自然循環型の米、野菜づくり。
所在:山梨県北杜市白州町横手1118ぴたらファーム
HP: http://pitarafarm.com/index.html


【取材記者のひとこと】石川真衣
山梨県北杜市の、トトロが近くに住んでいそうな家“ぴたら邸”を拠点に農業活動をする“ぴたらファームさん”にお邪魔してきました。
泰斗さん、彩華さんたちの暮らしは、農業をしてみたい!という人にとってのひとつのロールモデルになるのではないかな、とお話を聞いていて感じました。「無理をしない」「できる範囲」というゆるやかさ。大変な作業もあるけれど、その中で自分たちの手作りな生活を楽しみたい。手作りしていく実感とともに気持ちの良い生活をしているのだと思いました。
「健康に育った野菜は、病気にもやられない」、これは人間も同じことですが、人が口に入れて原動力にする食物も健康なものが良いですね。
ぴたらファームさん、ありがとうございました。


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