皮ごと食べてみてください――がぶりガーデン

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「がぶり!と、もぎたてを丸かじりするのが一番おいしい」。福島・北会津の果樹園、がぶりガーデンの名前と果物には、震災にもへこたれない、そんな思いがぎゅっと詰まっている。がぶりガーデンの魅力と今をお届けします。




がぶり、は葉っぱの健康から


――がぶりガーデンの名前の由来は何ですか?

星さん:それが一番奥深いところです。一番の想いが「直接来てくださいよ」で、実際自分でもいで、「いい空気を感じてその場で丸かじりしてください」というのが、がぶりガーデンの由来です。

――どんな果物を作ってらっしゃるのですか?


星さん:さくらんぼがあって、桃、ぶどう、プルーンと、リンゴも何種類か栽培しています。収穫の時期はいろんな品種が楽しめるようにってことで。



――作る時のこだわりはどんな所にお持ちになられていますか?


星さん:一番こだわっているのは「農薬をなるべく使いたくない」ということです。葉っぱが丈夫だと実も良いのがなり、病気にもなりにくいというのがあるので、葉っぱを健全に育てている所です。





――木の健康を気にしているからなのでしょうか?


星さん:農薬の成分が散布してからどれくらい残るかって、物によって違って。だから丸かじりする分、収穫の時期を毎年計算して散布をやめる、ということをしています。もちろん、毎年県から来る情報を元に散布するものを変えています。



――葉っぱを健全に保つには、農薬を使わない他にどんなことがあるのですか?

星さん:人間と一緒でミネラル分って必要なんですね。その酵素の部分を、肥料をあげる時に一緒に混ぜる、そうすると木が健康になるんですよ。土壌の成分をいい状態にするというのが、一番基本なので。



――なるほど。土壌を作る時に酵素を入れるというのはどういう事ですか?

星さん:
成 分については、配合は社長(主人)が一手にやっているので、木になっているものなら、これはいいとか悪いとかは言えますけど、土の中の話しは社長じゃないと分からない。例えば「このぶどうは大丈夫だよね」と言ったら、「いや、この木のは全部落としちゃって。来年はまた元気になるから」って。



――それは勉強されたのでしょうか?

星さん:
いや「勘」じゃないですかね。りんごも理屈なく、結婚する前の年にいきなり「オレ、りんごやるから!」って。




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「無謀なんじゃない?」と周りの人達は皆言ってたんです(笑)

――今、2代目の息子さんが運営の中心だと思いますが、一番最初にがぶりガーデンを始められたきっかけは何だったのでしょうか?

星さん:元々、 米中心の農家だったんですよ。果樹園に切り替えて、最初のうちは何にも分からずやっていたんですけど、作った物を市場に持って行って、市場が値段を付けて出荷するという体制よりも、せっかく自分達で作ってるのだから、直接お客さんに試食してもらって「おいしかったら買ってって」という形式はできないものかと。その頃はそういうことをやっている所が全然なくて。そこからさらに発展して「実際にお客さんに採って楽しんでもらいたいな」という発想になり、平成5 年くらいに、観光果樹園として始めました。



――お米から果物に転向したんですよね。

星さん:果物って、ぶどうだと植えてから8年くらいかかるんですよ。「その間どうするの?」という話ですよね。だから「えー、ちょっとそれって無謀なんじゃない?」って、周りの人達は皆言っていたんですけど、まあ今は果物にして正解だったかなと思ってます。



――実際にお客さんに採ってもらうという売り方に変えたことで、作る時に何か変化はありましたか?

星さん:ぶどうだと、出荷用っていうのはこの規格だと値段が高いというのがあったんですけど、お客さんに直接採ってもらうように変わってからは、味ですよね。本当に良いやつだけ製品にして食べてもらう、または出荷するっていうような方式になりました。



――果物本来のいい部分を直接お客さんにお分けできるってことですね。切ってあった桃と、もいだばかりの桃では、味が本当に違いますよね。

星さん:果物ってなんでもそうなんだけど、皮と実の間のところに一番栄養があるの。



――では、やはり皮も安全でないければいけないと。失礼ですが、この付近の皮は(放射性物質について)安全なのですか?


星さん:全然大丈夫だよ、会津は。春の山菜はなんか数値の制限あって以降、全く出てないけどね。ただ、自然がどこでどのように作用するかは分からない。一年経って初めて現状分かったくらいだから。




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去年は、もう本当にどうしようかと思いましたよ



――星さんは物産展にも出店されていると聞きましたが、やはり直接良い物を食べてもらいたいということから、出店されているのですか?


星さん:それは、もちろんです。





――直接物産展で出店されていて、良かった事や厳しいと感じた事はありますか?

星さん:私 達は自分で手をかける仕事が重視されているので、物産展も年にせいぜい4〜5回程度しか行けないんですよ。ただ、去年(震災後)に関しては、全くここにお 客さんが来ないという状況だったんです。いつも観光で有名な会津地方に観光バスが走ってないっていう、すごく特異な状況で。果物って旬の時期が決まってま すから、それを放っておいたらもう全部だめにしちゃうじゃないですか。だから毎週、家族4人で、どこかしらに派遣して、本当月に10ヶ所以上行っていましたね。朝仕事にさくらんぼをガーッとコンテナーにもいで、物産展に行って、そこで箱詰めしながら販売したというのが去年の実態です。



――売った時のお客さんの反応はどうでしたか?

星さん:
 放射能検査というのをその果物ごとに受けてて、安心ですよっていうんですけど、なぜか、いくら検出されてなくても「買って頂いている」っていうような気持 ちになっちゃうんですよね。ましてや、持って帰るわけにはいかないんで。ただ、本当に地方から出てきているような人達は、すごく応援してくれて、親戚とか にも「宅急便でここに送ってくれる?」みたいな感じで。その辺の分岐点は、小さいお子さんがいる家庭かどうか。あと、そういうことを気にしないで応援して くれる人かどうか。そこで反応が分かれたような気がしますね。



――今は、段々元に戻ってきた様子ですか?


星さん:そ うですね。今年は県外の大手企業が、あえてツアーを組んでくれたりして動くようになってきたので。実際、数でいうと通常さくらんぼ狩りって例年1ヶ月の間 にお客さん1万人来てたんです。去年の実績が1,400人です。だから8,000人食べてない分は自分で採って売るしかないですよね。四方八方に散って販 売してくるっていう状況で。今年はそれでも去年よりはちょっと良かったですかね。さくらんぼで、3,000弱くらいですかね。少しずつ県外のお客さんも増 えてきているので、少しずつは増えていくのかなって感触ではいるんですけど。





――今の時点でも、震災前の時と比べるとお客さんの数はまだまだですか?


星さん:全 然まだまだ!去年はもう本当にどうしようかと思いましたよ。息子達のいない世代っているじゃないですか。じいちゃん、ばあちゃん達だけでやっているところ は諦めモードですよね。だってどこにも飛びようがなく、ただじっと待ってるしかなくてお客さんが来ないなら、どうしようもないじゃないですか。私達は娘と 息子がいて、自分自身もまだ動ける感じだったので「やめちゃうのはだめだ、頑張ろう、少しずつ上向きになってくれればいいな」っていう思いでやれていま す。




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一歩ずつでも進んでいきたい



――実際やめられてしまった農家さんもいましたか?

星さん:農家はやめたくないけどここではもうできないって全部畳んで、長野にそっくり移住しちゃった方もいました。一からもう一度栽培し直すんだって。(昨年の)6月くらいに長野の土地を交渉して植え付けを始めると。今、頑張ってるって言ってましたよ。





――星さんもやめたいと思われた時がありましたか?

星さん:
以 前は、お客さんが多くてバスが止まる所がなくて、駐車場を借りなきゃいけない程の状況でいたのが、個人のお客さんが今日は3人とか。これどうするの?本当にだめなんだねって思って。6月の頭くらいから、息子が青年会議所に入ってて、青年会議所っていろんな地区にあるじゃないですか。そこが「自分の所でイベ ントを組むから(売りに)来てよ」って声をかえてもらったのが最初のとっかかりで、すがる思いでいろんな所をまわって。そしたら地区でやるお祭りなど、 段々枝が広がってったという感じ。収入はもちろん激減したんですけど、そういう繫がりで結構今まで全く知らなかった人達とおつきあいすることができるようになって、ちょっとずつ量的にも戻ろうとしている、という感じですね。





――人との新しい繫がりも含めて、もっと頑張ろうという気持ちになっていけた、という事なのでしょうか?


星さん:そうですね、本当にそうです。そんな感じです。



――物産展や果樹園など、来てくれたお客さんと触れ合うことが多いと思いますが、都市(東京)と地元の畑が繋がる事に感じる事やこうなってほしい、という事はありますか?



星さん:正しい情報っていうのかな。私達は単独で果樹園をやっているから、品種に対して一つ一つ検査に出して自分で結果をもらって大丈夫ですよ、ってやれているけど、福島県全体としておかしいと思うのは、地区で決めるじゃないですか。ある日(放射性物質が地区の一部で)出ちゃったから、その地区全体のものが販売中 止になって「今まで買っちゃったやつを回収します」ってなって。もう食べちゃってるって話ですよね。なかなかね、個人の想いと市や県の行政の意向とはかなり開きがあるので、厳しいですね。私達が何度発言しても、善処しますで終わっちゃいますからね。それが本当に動くのかどうかって事ですよね。





――買う側もそうなんだろうなって思ってるから、なかなか買えなくなってしまって。


星さん:
 そうですよ。だから、逆に今はいわきの水揚げのやつが一番安全かもしれないですよ。必ず個体で検査してやっているから。だから本当に信頼関係を取り戻すという意味では、まず正しい情報かなと思いますよね。「どうなのかなぁ」って微妙なところがお互いに嫌なことだと思うので、駄目ならだめで別の事を考えるし かないんだし。



――信頼を得るには大きな機関がきちんと対処してくれた方が良いですが、 今の状態では大きな機関を通した方が、食べてくれる人を遠く感じてしまうという事ですか?



星さん:そ うなんですよね。逆にね、ここに来てもらったりとか、直接売りにいってしまった方がお客さんとのやりとりも、信頼関係もいい感じなんですよ。東京電力の状 況も少しずつ改善していくとは思うんだけれども、はっきりと「何年か後には元に戻るんですよ」というのは誰も分からないじゃないですか。だけど果物を作っ ている以上、一回一回できたものを調べて、安心を確認して、そういう繰り返しをしていくしかないのが現状です。いつになるか分からないことを待っているよりは、一歩ずつでも進んでいきたいという想いが強いです。

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お客さんとのやりとりが楽しくて




――田んぼから今の果樹園にまでされて、震災もあって。完全ではなくても、また新しい方向に向かっている状態だと思うのですが、これからの「がぶりガーデン」はどのような果樹園にされたいですか?


星さん:ふ と思ったのは、さっき言った一番最初の時期、お米から果物に切り替えた頃の初心に、改めて帰る気持ちかな。携帯なんて、その頃もちろんないですよね。ふもとの売店で「ぶどうがなくなりました」というのを、畑で仕事している人に知らせるのに、爆竹を上げるんです。そういう昔ながらの感じ。一旦またリセットし てそういう頃の気持でやるのがいいのかもね、みたいな。最近の私達家族の話し合いでは「地道に少しずつやってくしかないよ」と言っています。



――これからも、どんな時も、今を頑張るという感じでしょうか?


星さん:そ うですね、果物って今年は駄目だからもういいやってなっちゃったら、全部木がだめになっちゃうんですよ。例えば許容量が決まっていて、1本に10個しから ならないキャパを放っておいて、そこに50も60もならすと、次の年、1個もならないんです。それくらい敏感なんです。だから、お客が来ようが来まいが農 作業自体やることは全部一緒なんです。


――だからやはり機械をしっかり通して信頼を経る事が大切なのですね?

星さん:数値で間違いがないのが、一番の信頼だから。

――それこそ、がぶりガーデンという名前は安全という意味も?


星さん:そう、「皮ごと食べてください」と。そうするとお客さんは「ホントだ、うまい!」と。そういうお客さんとのやりとりが楽しくて、なんとかやっているんですよ。





――(がぶりっ)、皮、意外といけますね。


星さん:そうでしょ!(笑)





――本日はありがとうございました。

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【プロフィール】がぶりガーデン 星 小由紀(ほし こゆき)さん


が ぶりガーデン1代目の奥様。果樹園では季節に合わせた果実を栽培。もぎたて果実を安全においしく丸かじりしてもらえるよう、収穫時期を計算して減農薬を使用。現在は息子さんが2代目として家族4人で運営されている。

所在地:福島県北会津郡北会津村上米塚1251

ホームペー ジ:http://www.adime.net/aziwai/





【取材記者の一言】大場 美帆

苦労話もさらっと お話される小由紀さんからは、お母さんの温かさと福島でおいしい果実を作り続ける覚悟を感じました。1代目・2代目・奥様の小雪さんと3者3様のエピソードもありそう。季節が変わった頃、またお伺いしたいと思っています。もぎたて桃が本当に甘くておいしかったです。



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